制度の狭間で留学に行けなくなっている日本の私

 トビタテ!留学JAPANの12期生に採用されていたのだが、制度の狭間に突き当たり何もできなくなった。重要だが細かい規定を色々と聞いたので、誰かのためになればと思って書き残しておこうとしているが、これを書いている2021年9月現在、留学に行けていないのは全て自分の判断によるものであり、自己責任論を信奉している方はこれ以降、大変愚かな人間による現代の寓話として消費してくれればと思う。そこまで決定的な、あるいは事務局に怒られるようなセンシティブな内容はおそらく含まれていない。自分がどんな人間だか別に隠していないのだが、念のため実名アカウントではないこのブログで公開しているということには配慮してほしいものの、本稿に関する反論や相談はもちろん大歓迎である。

 まず前提として、トビタテ12期(2020年2月に採択決定)は採用決定の時期が時期だったので、採用後の壮行会が急遽中止・オンライン開催になったりのちの研修も全てオンラインで行ったりしてそれなりに大変だと思う。2020年2月に採用決定したものの、3月末にはすでに状況が悪化したため渡航開始期限が延長されている。東工大では5月末には2020年度前期開始の、8月頭には2020年度第3クオーターまでに開始の、トビタテを含む全ての留学に対して、それぞれ中止・延期が決定されている。なお、2020年度10月半ば以降は状況次第で個別に判断となっている。トビタテでは、以下のように渡航開始/終了期限が段階的に延期された。
 

渡航開始期限
  採用時:2020年10月31日
  2020年3月31日:2021年3月31日に延期
  2020年7月31日:2022年3月31日に延期
  2021年6月15日:2023年2月28日に延期

渡航終了期限
  採用時:渡航開始から1年間(つまり本来ならば2021年10月末)
  2021年6月15日:2023年3月31日に延期


 なお、自分が最も困ったのは2020年7月31日2021年6月15日の延期である。以下順を追って説明する。 

 

  • 2020年7月31日の延期

 これまでは2020年度中が留学開始期限だったのが、この延期によって2021年度中に留学を開始すれば支給可能、となった。(官民協働海外留学支援制度~トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム~派遣留学生に対する今後の支援等について)自分はこの時修士課程の2年目だったので修了に必要な単位を取り終えており、留学から帰ってきて一年間修士論文を書いて修了という予定でいたのだが、本来の修了時期が2020年度末なので留学のために1~2年休学する予定だった。2020年度の前学期は研究室で従事しているプロジェクトがあり、建築士試験の実務経験に参入できる実習単位を取得するために休学していなかった。ちなみにこの判断が大きなミスの一つになったのだが、東工大は休学している間は授業料の納入が必要ないため、単位を取得する必要のない2020年度後学期(当初の留学開始時期である)からは休学するという予定でいた。

 またこれとは関係ないが、2020年3月ごろにいずれ博士号を取得することを考え始めていた。自分の専攻分野は一般的な学問とは少し違い、実務と研究が等しく重要であると考えており、ストレートでアカデミアに進むのではなくて修士号を取得した後、数年は実務経験を積んで論文博士あるいは社会人博士で学位取得できたら、と思っていた。

 しかし、この延期によって修士課程で休学する理由がなくなってしまった。つまり、2021年度中に渡航開始できれば良いとなれば本来の修了時期である2020年度末に修了し、2021年度は進学して機会を窺いつつ可能なら留学開始、という動き方もできたわけである。もちろんこれは自分の見通しの甘さによる判断ミスであるが、トビタテ事務局も自分同様に2020年春の段階でコロナ禍をナメていたということだと思う。

 自分の所属している研究室はボスが大変な人格者なので、この時かなりボスに相談した。修論執筆に一年間かかるというのが前提としてあるため、結局この段階で博士課程にそのまま進学することを決め、2021年度の夏卒業というスケジュールで修了する予定でボスにも了承してもらい(うちの研究室で春入学学生の夏卒業は異例であった、ボスには本当に感謝している)、進学後の半年間で渡航開始できれば留学をしようということにした。

 

 

  •  2021年6月15日の延期

 これは正直ほんとうに困っている。前述のように半年遅れでちまちま修士論文を書いていた時期に発表された。(感染症危険情報レベル「レベル2」又は「レベル3」の国・地域への学生派遣について)最も困る規定変更は「留学期間は連続した9か月以上であること」であり、これにより現在は実質上の渡航開始期限が2022年7月となっている(2023年3月までに留学を終了する必要があるため)。問い合わせたところ、短期の海外渡航によるウイルスの感染拡大に配慮したという話であった。

 問題はここからで、博士課程進学を見越して令和4年度採用の学振(DC1)に応募した。余談だが学振が秋入学のスケジュールに全く対応していないのはそろそろ改善されるべきだと思う。何はともあれ学振の採用可否は採用前年度の10月あるいは1月であり、自分が応募したものも例年通りまだ選考中である。最も遅い場合、通常国会で予算が確定しない限り採用可否がわからないケースもあり、第二次選考補欠者の採用可否通知は2月下旬ごろまでとされている。

 ところで自分も確認不足でよくわかっていなかったのだが、トビタテと学振は併給不可である。トビタテは民間出資のはずなのだが、JASSOと同じスキームで大学を通じて振込手続などを行なっており、この場合は原資に関わらず併給を認めない、という方針らしい。じゃあ「国庫を原資とするもの」という記述は何のためにあるんだ、頼むぜマジで。

 この段階(2021年6月15日)で即座に留学を開始すれば、9ヶ月ギリギリでも2021年度中に留学を終了することができたが、当時の自分は修論執筆も佳境であり、2021年6月末日までに留学を開始するというのは結果的に不可能だった。したがって修論審査後(2021年8月以降)に留学を開始した場合、留学を終えるのは2022年度になってしまうということで、前述のようにトビタテと学振は併給不可であり、仮に学振で採用された場合は2022年度が開始した段階でトビタテもしくは学振を辞退する必要がある。

 これもあまり意識していなかったのだが、トビタテの辞退には奨学金の返納が伴う。これは受給済みのものや別途支給の渡航費なども含むため、上記のように留学中にトビタテを辞退するとなると、その時点で留学中止・受給済みの奨学金を返納しなければならない。いくら博士課程学生がひどい経済状況にあるとはいえ、数年間は額面20万の学振を辞退するというのは考えづらいので、この場合は留学すればするだけ借金を抱えることになる。ちなみにトビタテの受給金額は申請時の渡航先地域によって決まっており、自分は最低ランクの地域であった(月額12万、本来滞在する地域の家賃相場はワンルームで6万円程度だったのだが自分はどうするつもりだったのだろう、、、)ので別途支給の渡航費などを含めると、学振を額面で考えれば大体渡航した期間と全く同じ期間の分の研究奨励金が借金返済に当てられる計算となる。最近地方都市に異動した同期が家賃補助が月7万円だと言っていたのだが、この国が教育研究に投資する気が全くなく、真っ直ぐに後ろに進んでいる世界初の後進国であることを改めて確認できた。

 

 かくして制度の狭間に突き当たって留学を計画することができなくなっている。重ね重ねだがこれは自分の判断ミスによるものであり、その原因を全て制度に帰することは意図していない。あくまで状況説明である。 ということは本稿は人生の全ての判断を自らの責任において粛々と実行できる読者諸賢には関係ないのでは?以上、終わります。